2015年9月20日日曜日

銀座のフタ


私の来る銀座は いつでも雨だ。銀座のみならずギャラリーや美術館へ行こうという日は 大概 雨が降る。しかしどういう訳か、今日は暑さ残る 晴天であった。

G I N Z A .
まだ 慣れ親しまない街だから 他人行儀に お洒落して行くのが楽しい。着慣れた麻のワンピースに、革鞄と黒靴を キチンと合わせて。「銀座なんて庭よ、庭」といった顔はせず、かと言って田舎娘にも成りたくない。目的地に集中し、大通りを いざゆかん。観光客をスムーズによけ、ご年配マダムの傍をゆっくり追い越す。道に迷ったら その場で足を止め、カカトでスローに 一回転。顎を上げ、ビル高くまで重なる 看板を探す。

今日は、友人に勧められた展示を見に来たのだ。ギャラリーは狭い入口ビルの7階で、こんな所にヒトが来るのかしら、とドアを開けると 8人も居らした。下界と上階の 異空間差が おかしくて、大人だった。惚れ惚れする絵を堪能し、一息ついて そこを後にした。


実はもうひとつ 目的があった。
「資生堂パーラーの花椿缶が ほしい!」である。来月からパッケージリニュアルで白缶が無くなる事を知り、あわてた。まるでオイルショックだ。資生堂パーラーも同社の化粧品も無縁であったが、ホワイトデーに ここのチーズケーキをいただき、その包装紙 (ターコイズブルーと金文字) の格好よさに、ようやく興味を抱いたのだ。

本店へ向かうと、白缶は 既に完売であった。伺うと 向かいの松屋銀座に在庫ありと分かり、ホッとする。( 弟に食べられたと思っていたオヤツが、実は残っていた!時のような「ホッ」である。何が何でも欲しい訳ではないのに、こういう時に滲み出るニヤツイタ顔が 大嫌いだ。)

まだ、新しい思い入れの無いこの缶は、いつか 味わい深く 錆びつく。私もいつか 錆びるのだろうか? 新品のままでは いられない。しかし 錆びてフタが開かないと 上っ面だけを整えることになる。中身をよく 入れ替え、銀座の大通りをすんなりと歩ける度胸、朗らかさを詰めた そんな缶になれたら。

次の銀座は、傘がいるかしらん。

2015年9月11日金曜日

神保町の片隅で。


八月の末、神保町の夜。
友人ふたりに混ざって、居酒屋の片隅。

彼らは美大4年間、いつも二人で居て 女の子とはあまり話さない様子だった。そこには 私の知れない〈彼らだけの楽しみ〉が在るようで、こっそり うらやましかった。同じ研究室に入ってからも 私は所在なく、浮ついた心のまま過ごしていた。

気鬱だったある年の文化祭。ため息まじりに 準備中の校内をほっつき歩いていると、手放しにしていた 文化祭の出し物である壁画を、「なんとか完成させよう」と 二人が残って描き続けていた。日も暮れかけだから、塗った色が判断しにくかっただろうに。

その時の私は もう〈なんでも、どうでもいい気分〉で、彼らの描くのをただ側で 眺めていた。一緒に描いたか、邪魔しちゃいかん と見るだけだったかは忘れてしまった(もしかしたら「残ってやってけ」とは 実行委員だった私が言ったのかも知れない。)…そうやって、その時も「仲良しでいいなぁ」と 駄目駄目ジッコーイーンは指をくわえていた。


そして先月。卒業後 2年ぶりのM君と、去年 展示に来てくれたY君。「…まさかこの3人で呑む日がくるとはねぇ」と (いつもの)二人と、特別ゲストの私が、口を揃える。きっかけは、M君が旅先ブログに載せていた神社に「私も行ったよ〜!」と連絡したことだった。いい所だったので、お礼を兼ねた久々のメールだった。

すると なんと、定期的に開く二人会に「おいで」との お声がかかった 。もう嬉しくって それから一週間、私のシッポは ルンルン回転を続けた。呑み会はとても楽しく、あっという間だった。ほどよく酒のまわった じーちゃん(Y君)が隣のソファに沈んでゆく姿や、M君が親戚の おいちゃんみたいに「美味しいからさ、あったかいうちに 食べなよ」と 唐揚げをすすめてくれるのも、もちろん 絵や大学時代の話も 面白かった。一方は漫画家に、もう一方は繊細な絵を描き続けている。

私はこれと言って胸を張れるものは ホントはないくせに、作りためたブローチを ちゃっかり ハンカチに広げて披露した。喋れば喋るほど 的を得ない 拙(つたな)さが あらわになってゆき、恥ずかしかったなぁ。

あれから、前進する二人に影響を受けて 小説を 書き始めた。今の自分の気持ちを「カタチ」ではなく「文字」に ただして 知ろうと思ったのだ。すごく恥ずかしいものが出来るだろうけれど、それでもいいや。

ちなみにあの時、壁画の前で 私は彼らに アンパンマンチョコを差し入れたそうだ。果たして オヤツで二人の心は釣れたのか。私には〈 夜通し眠たげに過ごして 、明け方に ドーナツとホットミルクで 別れたいような 〉、面白い二人になったけれど 。